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<漱石の偉大さ> 「漱石がわたしたちに偉大に感じさせるところが あるとすれば、つまり、わたしたちだったら、 ひとりでに目にみえない枠があって、この枠の なかでおさまるところなら、どんな辛辣なことも、 どんな自己批評も、どんな悪口も、なんでもいうと いうことはありうるわけですけれども、漱石は、 そういう場合に真剣になって、度を越してあるいは 枠を超えちゃっていいきってしまうところだとおも います。 ・・・ しかも言い方が大胆で率直なものですから、すこしも 悪感情をもたせないんです。 ・・・ ためらいもないし、また利害打算もどこにもなくて、 ほんとに心からいいきってしまうところが魂の大きさ で、なかなかふつうの作家たちがもてないものですから、 偉大な文学者だなとおもうより仕方ないわけです。」
<知識人の憂鬱> 「「二百十日」や「野分」のような作品で、漱石は ものすごい勢いで社会的な特権階級に成り上った 明治の富有者たちを、えげつないものとして、 登場人物をかりて攻撃しています。 そして、明治の成り上った分限者たちが、知識とか、 人間の人格とかというようなものを軽蔑する文明の 行方が、どんなに堕落していくかはかり知れないと、 声をおおきくして叫ばせています。」
<作家と思想家> 「明治以降、ただ一人の作家をといわれれば、漱石を 挙げる以外にないとおもえます。 それから、一人の思想家をといえば、柳田国男を挙げる より仕方がない。」